"ブラックホール観測の現状" |
牧島一夫(東大) |
ここ10年、さまざまな波長域での観測により、宇宙にさまざまな質量をもつブラックホールが存在する証拠が、急速に増えつつある。さらに、それらが宇宙で いつどのように形成されたかも、推測できるようになってきた。 恒星質量ブラックホールは、大質量星の超新星爆発によって作られる。ある種 の条件が整うと、そのときガンマ線バーストが起きることが、HETE-2衛星の活躍 で明らかになった(2003)。恒星質量ブラックホールを含む連星は、すでに30個ほ どが知られており、そこへの質量降着の様子は、理論と観測の両面から大きく 理解が進んだ。近傍銀河に見られる大光度X線源 (ULX)や、M82銀河の中心付近 にあるX線源は、太陽の数十〜数千倍の質量をもつ、中質量ブラックホールであ る可能性が高まりつつある(2000)。重力多体計算にもとづき、中質量ブラック ホールを作ったり、それらを合体させて巨大ブラックホールを作るシナリオも提 示されている(2001)。電波観測などにより、ある種の銀河中心では、確かに2つ の巨大ブラックホールが合体寸前にあるという証拠も得られてきた(2002)。こう して形成された巨大ブラックホールが、ほとんどすべての銀河の中心に存在する ことは、電波、可視光、X線などの観測が一致して示すところである。なかでも 水メーザーを用いたNGC4358銀河での測定(1995)は特筆に値しよう。巨大ブラック ホールの質量が母銀河の性質と強く相関することも、それらが合体で成長したと する考えと整合している。 本講演では、こうしたブラックホール観測の現状と、将来の展望を紹介したい。 |
"太陽ニュートリノ観測の現状と将来" |
竹内康雄(宇宙線研) |
太陽ニュートリノ観測に関する簡単なレビューを行う。 まず、太陽ニュートリノ問題やこれまでの太陽ニュートリノ実験について 簡単に紹介した後、主にSKとSNOについて最新の実験結果の紹介を行う。 ニュートリノ振動解析に関しては、さらにKamLANDの最新の結果に関しても 紹介を行い、各実験結果を総合的に解析した最新のニュートリノ振動解に ついて説明する。最後に、太陽ニュートリノ観測の将来計画に関して簡単に レビューし、その1例として、神岡坑内でR&Dが行われているXMASS実験に 関して進展状況の紹介を行う。 |
"高エネルギーニュートリノ天文学" |
吉田 滋(千葉大) |
宇宙線放射に代表される高エネルギー宇宙(TeV以上)の主役にニュートリノがいることは古くから知られてきましたが実際の観測が射程距離に入ったのは最近のことです。このレビューでは、高・超高エネルギー領域でニュートリノが生成されうる機構を御紹介した後、観測実験とデータの現状について議論するとともに、一般的な解析手法の概説も行ないたいと思います。 |
"宇宙のダークエネルギー" |
須藤 靖(東大) |
20世紀の観測的宇宙論の重要な帰結として、現在の宇宙のエネルギー密度の 96パーセント程度が正体不明の成分であることが明らかになっている。2割程 度を占めるダークマターはすでに20年以上前からその存在が認められていたが、 残りの7割程度であるダークエネルギーの存在が広く認知されたのは、20 世紀 末のことである。 良く知られているように、ダークエネルギーの原点はアイ ンシュタインの宇宙定数である。宇宙定数の存在が及ぼしうる影響については 理論的にはずいぶん昔から議論されてきた。しかし、宇宙定数、さらには時間 変化する宇宙定数といった言語的にも首をかしげるような名前のもとではパッ としなかった研究が、超新星のハッブル図の研究に刺激されてクインテッセン ス(第5元素)さらにはダークエネルギーと呼ばれるようになって以来、急速 に盛り上がって現在に至っている。 天文観測という立場からこれらの正体を特定することは不可能で、最終的に は地上実験を待つしかない。実際、ダークマター(の一部)については加速器 /非加速器実験によって10年程度で直接検出が期待でるかもしれないが、ダー クエネルギーとなると50年、100 年待たねばならないであろう。その意味では、 ダークエネルギーについてはまだまだ宇宙観測を通じて間接的であれ、その性 質を制限していくことは重要である。本講演では、現時点でのダークエネルギー に関する観測的な制限を要約し、今後の展望を議論してみたい。 |
"重力波観測の今後の展開" |
大橋正健(宇宙線研) |
レーザー干渉計による重力波観測は、日本のTAMA300に始まった。 その後LIGOの本格的な稼動により、その観測範囲はアンドロメダ 銀河を超えてさらに広がりつつある。近い将来に乙女座銀河団に まで到達するであろう。伊仏VIRGOも来年には観測を開始する予 定である。我々がターゲットとしているのは連星中性子星の合体 イベントであるが、一銀河あたり百万年に一回の頻度と予想され ているので、重力波検出の現実性を高めるためには更なる感度向 上が必要である。そのためにLIGOの次期計画や日本のLCGTが予算 要求されている。これらは数億光年まで探査範囲を広げ、1年の 観測で十分にイベントをとらえるはずである。また、昨年新たに 発見された連星中性子星はイベント頻度の予想値を一桁上げたの で、よりいっそう重力波検出の現実性は増してきている。 日本の現状としては、TAMAの感度向上はもちろんのこと、取得 された観測データを用いた解析手法の確立や、低温・防振などの 次世代技術の開発が進んでいる。特に、様々な雑音の中から信号 を拾い出す解析手法の研究が進んでいることが重要である。また 、地上検出器の将来計画を進めるだけでなく、LISAに代表される スペース検出器の実現に努力することも大事であろう。2007年に 予定されているテスト機の打ち上げで、LISAは遠い将来の話では なくなるからである。新たな重力波観測の時代が始まっている。 |
"宇宙核物理学の実験的アプローチ" |
久保野 茂(東大CNS) |
原子核反応は、宇宙の進化と可視物質生成に不可欠の働きをしているが、その多 くの反応は、全く判っていない。元素合成の素過程である核反応を1つ1つ明ら かにすることで、時計を逆に戻すことにより、進化のメカニズムを探る重要な手 がかりを与える。この手法は、宇宙初期までを研究対象とする有力な手法であ る。特に、その多くの生成に関わると考えられる爆発的過程などの高温高密度下 の核反応が重要課題である。ここで、高温高密度下の核反応は、必然的に不安定 な原子核を含む核反応となる。 一方、最近の元素の観測は、単に元素ではなく、同位元素の観測を可能とし てきた。超新星などで、放射性同位元素とその生成量が同定され、生成反応の特 定も可能となってきた。たとえば、COMPTELによるCasAからの 44Tiや、SUBARUによるs過程星からの151,153Euなどの観測 である。これらは、観測、モデル、核物理からの総合的なアプローチにより、初 めて統一的に解明されるのである。 これらの放射性同位元素を生成する核反応を調べるためには、不安定な原子 核を生成し、実験を行う必要がある。そのための不安定核ビーム生成施設の開発 とそれを使った実験が、この十年で世界的に研究されるようになってきた。具体 的な研究例として、新星の研究例を紹介する。 特に重要な研究課題は、UやThなどの非常に重い核種の生成をつかさどる r過程の研究である。これは、超新星のメカニズム研究だけではなく、宇宙年代 学に不可欠である。また、近年のSUBARUなどの観測から第一世代の星の進 化の解明にも不可欠の要素となってきている。r過程に関わる核種は、実験室で 大変作りにくいが、現在建設中の理化学研究所のRIビームファクトリ計画の中 で、世界ではじめて本格的な研究ができる可能性がある。これらの展望について も話す。 |
"宇宙における粒子加速" |
星野真弘(東大) |
宇宙プラズマの粒子加速についての現状をレビューする。宇宙における非熱的高エネルギー粒子加速については、「統計加速」など数多くの議論がなされてきている一方、最近の惑星間プラズマ観測や数値実験により、無衝突衝撃波や磁気リコネクションのエネルギー散逸領域に現れる「直接加速」によって、粒子が短時間で高エネルギーまで加速され、また従来の統計加速よりも硬いエネルギースペクトルも得られることがわかってきている。衝撃波や磁気リコネクションで起きている直接加速を支配するメカニズムは、宇宙線やガンマー線バーストなどの高エネルギー天体現象に現れる迅速な加速にとっても、新しい示唆を与えるものと思われる。 |
"HETE-2 時代のガンマ線バーストの研究 --ついに正体を見せたガンマ線バースト--" |
玉川 徹(理研) |
2000年10月に打ち上げられたガンマ線バースト探査衛星 HETE-2 は、バースト 発生位置を精度良く、数十秒で速報する能力を達成した、世界で初めての衛星 である。この速報能力のおかげで、ここ数年、ガンマ線バースト研究が飛躍的 に進んだ。 特に、2003年3月29日にとらえたガンマ線バーストGRB030329で、Ic型超新星爆 発の証拠(SN2003dh)が発見された。これにより、発見から36年間も天体物理学 者を悩ませたガンマ線バーストの正体が、ついに明らかにされたのである。 しかし、超新星爆発からどのようにしてガンマ線バーストのような激しい現象 が発生するのか、未だに謎のままである。X線検出器を搭載した HETE-2 や BeppoSAX 衛星により、X線領域にしか放射がみられないガンマ線バースト(X 線フラッシュ)が数多く存在することが明らかにされてきた。これらのバース トの存在は、ガンマ線バーストの発生機構に迫る手がかりになると期待されて いる。 一方、ガンマ線バーストを、遠方の宇宙を探査するプローブとして利用する試 みも始まっている。ガンマ線バーストは z=10 以上の遠方で発生しているのか、 それはスタンダードキャンドルになりうるのかなど、興味深い研究が行なわれ ている。 本講演では、HETE-2 を中心とした衛星による観測と、地上・軌道上のX線・可 視光・赤外・電波望遠鏡による観測事実を中心に、ここ4年間のガンマ線バー スト研究の急展開をレビューする。また、Swfit 衛星によって牽引されるであ ろう、これから先のガンマ線バースト研究の見通しについても紹介する。 |