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アブストラクト(ポスター発表)

"あすか衛星による超新星残骸G344.7-0.1の観測"
山内茂雄(岩手大)

 私たちはあすか衛星を用いて銀河面サーベイ観測を行ったが、この観測で 30個ほどの超新星残骸からX線を検出することができた。このうち、あす かの観測で初めてX線を検出できたものが約半数程度あり、G344.7-0.1は そのうちの一つである。本講演ではこの超新星残骸の解析結果について報告 する。
 電波のイメージでは直径8-10分角のシェル構造が見えるが、X線のイメ ージでは、直径約6分角程度に拡がったX線放射であることがわかる。 また、全体のX線スペクトルには、硅素、硫黄、カルシウムなどからの輝線 が見られ、主に約0.8 keVの温度の高温ガスからの放射として説明できる。 高温ガスからの放射成分に加え、6-7keVにライン構造が見られ、その中心 エネルギーは約6.4keVであった。このラインは高温ガスとは別の放射と考え られるが、その放射過程はよくわからない。
 一方、観測から求められた高温ガスの物理パラメータを用い、セドフ解を 適用すると年齢6000-7000年となる。

"Optical Image of the Jet-Powered SNR W 50"
小谷太郎(東工大)

 W 50はマイクロクエイザーSS 433を包み込む超新星残骸であり、SS 433からの 高エネルギー・ジェットを104yrにわたって内側からあびつづけてきた特 殊な天体である。蓄積されたエネルギーは1051ergに達すると推定され る。ジェットとの衝突によって形成されたジェット・ローブはX線領域でシン クロトロン放射しており、電子がTeV程度まで加速されていると思われる(Yamauchi et al. 1994; Namiki et al. 1999; Safi-Harb & Petre 1999)。 通常の超新星のイジェクタの速度は〜103kms-1程度なのに 対し、W 50では0.26 cの相対論的ジェットが星間物質と相互作用しており、相対論的 ショックを研究できる極めて珍しい系となっている。ところがこの系は 2°×1°と広いため、写真乾板での観測には向いているが、 CCDでは精度のよいデータが撮られていない。我々はUniversity of Hawaii 2.2 m TelescopeによってW 50のRバンド可視光観測を行なった。焦点面検出器 には31'×31'の広視野を持つUH 8k mosaic CCD (Hodapp et al. 2003) を使用した。目的は、(0) 25年前に撮られた写真との比較による衝撃波 のプロパー・モーションの直接検出、(1) 相対論的衝撃波の微細構造の検出、 (2)ジェット・ローブの可視光放射の検出 などである。本ポスターでは preliminaryな解析結果を紹介する。

"X線連星パルサーからの鉄輝線の起源"
幸村孝由(工学院大)

 多くのX線連星パルサーから中性ないしは低電離の鉄輝線が観測されている。 その鉄輝線の起源は、中性子星の周りの比較的温度が低く、密度が高い領域 が候補として考えられる。
 アメリカのX線天文衛星RXTEで観測した、大質量連星パルサーCenX-3、 低質量連星パルサーGX1+4 の時間変動についてクロススペクトルを用いて 解析を行なった。結果として、鉄輝線が連続X線に比べ〜5ms、〜200ms 遅れて変動していることを発見した。CenX-3、GX1+4の磁場の大きさが それぞれ10^12G、10^14Gと考えた場合、この結果から、鉄輝線の起源は、 中性子星からアルフヴェン半径程度離れた領域に中性子星からの連続X線 が照射することによる蛍光鉄輝線であり、鉄輝線の放射領域の候補は、 降着円盤の内縁であると考えられる。

"相対論的MHD(Force-Free近似)によるパルサーダイナミックス"
浅野栄治(千葉大)

 我々は相対論的Force-Free方程式を解くことにより、中性子星とそのディスク における磁場の相互作用について研究してきた。初期条件として、中性子星と その磁気圏に深く入り込んだディスクを置き、ディスクを貫く双極磁場を仮定 した。中性子星とディスクの回転は境界条件で課した。この系の時間発展を追 うためにHLL(Harten-Lax-van Leer)法を用い、二つのモデルについて計算を 行った。
(1)共回転半径より内側(星の回転速度より大きい)のディスクと星、
(2)共回転半径より外側(星の回転速度より小さい)のディスクと星。
結果は、両モデルとも、星とディスクの差動回転によるねじれによって、星と ディスクを繋ぐ磁場は膨張を始めた。星やディスクの回転がπラジアンを超え ると磁力線は光速近くの速度で膨張していく。これは中性子星を含む連星系で 観測されるような、相対論的なアウトフローの起源となるメカニズムとして考 えられる。

"ブラックホール候補星GRS 1915+105の低温ガスによる散乱モデルによる解釈"
大川洋平(立教大)

 高エネルギー天体の1つであるブラックホール候補星GRS 1915+105は、1992年に GRANAT衛星によって発見されて以来、多波長に亘って数多くの観測が行われている。 その結果、現在までに多くの特徴が明らかになった。光速に近い速度のジェット を噴き出していることや、準周期的振動(QPO)の存在等である。しかし、現象の メカニズムに関しては、未知の部分の多い天体である。我々は、RXTE衛星の データからスペクトル解析及び時間変動の解析を行うことによって、諸現象の メカニズムを解明するための研究を進めている。
 GRS 1915+105におけるハード状態のスペクトルは、多温度黒体輻射(MCD)と パワーローというブラックホール候補星の標準モデルでは説明が出来ないことが 分かっている(Belloni et al. 2000)。我々は、単純なパワーロー成分ではなく、 低温ガスでの散乱による効果としてComptonized-Powerlaw(CompPL)という 成分を用いてスペクトルフィッティングを行った。その結果、この成分を入れること によってハード状態を説明することが可能であることが分かった。
 ハード状態における異なるエネルギー間での変動の時間差には、低エネルギー側 に比べて高エネルギー側の変動が遅れるハードラグと高エネルギー側に比べて 低エネルギー側の変動が遅れるソフトラグがある。我々は、ガスでの散乱過程で 時間差が生じると仮定すると、電子温度を低温から高温へ変化させることに よって、ソフトラグからハードラグへ遷移することをシミュレーションによって明ら かにした(Ohkawa, Kitamoto, & Kohmura 2004, ApJ, submitted)。
 スペクトルと時間変動のどちらで考えても、この天体のハード状態を低温ガスに よる散乱モデルで説明することが可能であることが分かった。本研究会では、詳細に 得られた結果と考察を報告する。

"銀河中心領域のX線天体の調査による銀河進化の研究"
平家和憲(愛媛大)

 スターバースト現象は銀河中心領域で生じる爆発的な星形成活動である。 これらの星形成に伴い、星の一生の最後に作られるX線天体も多く作られる。 本研究ではX線天文衛星Chandraが観測した活発なスターバースト現象を伴う 銀河(NED上での分類:スターバースト銀河、LINER、HII領域、特異銀河、 セイファート2型銀河)計48個を系統的に解析し、合計で約900個のX線点源を 検出した。
 これらの点源の銀河内での分布や光度を調査した結果、いくつかの銀河 から銀河中心により近い領域にある天体ほどX線光度が高いという傾向を発 見した。特に中心領域の天体は中性子星のエディントン光度を超えている ので、ブラックホール天体である可能性が高い。
 これはEbisuzaki et al.(2001)で提案されたようにスターバースト現象に より形成された高密度な星団がその内部に作られたブラックホールと共に 力学的摩擦で銀河中心に移動していく過程の途中を観測したと解釈する事が できる。一方、銀河の中心領域ほどガスの密度が高いので形成される大質量星 の個数が多くなり、中心付近のブラックホールの個数が多くなるとも考え られる。前者の場合、明るいX線天体の分布はスターバーストの年齢と共に変 化する。後者の場合、X線天体の分布は銀河内のガスの密度分布を反映してい るので、その分布が年齢とともに大きく変化することはないと考えられる。
 本講演では今回の解析から得られた銀河中心からの距離とX線光度の関係を 示し、様々な角度からその結果について検討する。

"X線による大光度赤外線銀河の研究"
穴吹直久(宇宙研)

 クェーサー光度に匹敵する放射を赤外領域だけで放出している「大光度赤外 線銀河」は、ガスが豊富な銀河が他の銀河と衝突・合体する過程で生じる過渡 的な天体であり、銀河進化と巨大ブラックホール形成の歴史を探る上で重要な 天体であると考えられている。その莫大な赤外線放射は、銀河衝突の際に角運 動量を失って中心に落ち込んだ大量の星間塵による熱的再放射で、その熱源と して大規模な星形成活動(スターバースト)と活動銀河核(AGN)が有力視 されている。一方で、多量の星間ガスに覆われた中心核は観測的に調べるのが 困難であり、主熱源がどちらであるかという根源的な命題に対して未だ明確な 解答が得られていない。また、大光度赤外線銀河が巨大ブラックホール形成に おける重要なフェーズであるかどうかも良く理解されていない。X線は高い透 過力を持ち、そのスペクトルからAGNとスターバーストの放射を区別でき、 また、X線強度変動とスペクトルの形状から降着円盤の状態(質量降着率)を 診断できるため、上記問題の究明において最も強力な観測手段となる。
 そこで、あすか、チャンドラ、XMMニュートン衛星で観測された大光度赤 外線銀河について、過去最大のサンプルでそのX線データの系統的な解析を行 った。特に、本研究ではいわゆる1型AGNに分類される大光度赤外線銀河に 着目し、その中心核の性質を詳細に調べた。結果として、多くの大光度赤外線 銀河でAGNからのX線放射を検出したが、AGNが赤外放射の主熱源である という積極的な証拠は得られなかった。一方、その赤外線放射の大きさに見合 うだけの大規模な星形成活動が生じていることを示唆する結果を得た。さらに 、X線で明るい7つの1型大光度赤外線銀河は、狭輝線セイファート1型と呼 ばれる活動銀河核に特徴的なX線の性質を持っていることが分かった。狭輝線 セイファート1型は、質量降着の高いブラックホールであると考えられている ことから、X線で明るい1型ULIRGに存在する中心核は高い質量降着状態 にあると考えられる。

"Groth-Strip Field X線源の光学赤外特性"
宮地崇光(CMU)

 Groth-Strip Field は、28個の連なったハッブル宇宙望遠鏡(HST)、 Wide-Field PlanetaryCamera 2 (WFPC2) での観測にはじまり、現在から 将来に渡って、さまざまな多波長観測がおこなわれ、あるいはおこなわれつつ ある領域である。その一部として、われわれは、 XMM-Newton で80ksこの領域 を観測した。この深さで検出されたX線源は、典型的に、宇宙における超巨大ブ ラックホールへの降着の歴史のなかでも、ピークに相当する中心核活動を代表 するものからなり、それらのホスト銀河の特性を含めた詳細な多波長での性質 は、超巨大ブラックホールへの物質供給のメカニズムと宇宙の歴史のなかでの 位置付けといった観点から興味深いものがある。
 本発表では、XMM-Newtonで検出されたX線源のうち、WFPC2の観測視野内にある ものについての光学赤外域での特性を論じる。特に、HST WFPC2での形態、バ ルジ・ディスク分離。バルジ光度-速度分散-ブラックホール質量のスケーリン グ関係と、X線光度から予測したエディントン比、光学赤外での多色測光とそ の解釈を示す。
 また、既存の光学スペクトルで活動銀河核の兆候を示さないものについて、わ れわれは、すばる CISCO/OHSを使い、近赤外分光観測をおこない、幅の広いHα 輝線や、Hαに比して比較的強い[NII]λ6548,6583輝線といった活動銀河中心核 の兆候を得た。その結果もあわせて報告する。

"HETE-2衛星によるGRB 020813の観測"
佐藤理江(東工大)

 GRB020813 は 2002年8月13日 02:44:19.17 (UT)に発生した、継続時間が長く、明るいガンマ線バースト (GRB) である。このバーストは、HETE-2 衛星によって発生から 4 分後に位置速報がなされ、早期からの可視光残光の観測が報告されている。また X 線での残光観測からは、そのスペクトルにケイ素や硫黄イオンに特徴的な線が見られ、GRB が超新星爆発との関連した現象であるという強い証拠を得ることができた。
 HETE-2衛星は、広視野X線観測装置 (WXM) とガンマ線観測装置 (FREGATE) を用いることで、約2~keVから400~keVの帯域で GRB 本体のスペクトルを詳細に観測することができる。本講演では、HETE-2 がとらえた GRB020813 の、X線、ガンマ線の光度曲線、スペクトルの解析結果を報告する。

"東工大、岡山、および明野観測所におけるGRB残光観測システムの構築"
佐藤理江(東工大)

 我々は、東工大、明野観測所、岡山天体観測所において、Swift / HETE-2衛星 からの通報を受け、ただちにガンマ線バースト残光を可視光望遠鏡で自動観測 を行なうシステムを開発している。岡山においては、近赤外での観測も行なう。
 東工大システムは口径30cmの可視光望遠鏡から構成されている。CCDカメラには AP6E (Apogee社) を使用している。これらを合わせた視野は 44 × 44 arcmin2 と広く、衛星による位置決定誤差範囲を十分にカバーできる。また都市光の強い環境下にありながら、限界等級は R〜17.3 等級 にも達する。早期残光を捉えるには十分な感度である。
 明野、岡山は口径50cmの可視望遠鏡から構成されている。焦点部では、 入射光を2つのダイクロイックミラーで3つに分岐させ、それぞれの焦点に CCDカメラをおくことにより {V,R,I}-bandの3色同時観測が可能となっている。 CCDカメラには、高速読み出しが可能な市販の AltaU6 (Apogee社)を利用している。 近赤外望遠鏡は口径91cmで、フォワードカセグレンと準シュミットを組み合わせた UKIRT WFCAM タイプの光学系をもつ。検出器(HAWAII-2 RG,Rockwell社)の直前に {z,J,H,K}-band のフィルターを挿脱することで単色の観測が可能である。 視野は可視が 26 × 26 arcmin2, 近赤外が 56 × 56 arcmin2 となっている。
 これらの望遠鏡はロボット化して自動運用させる。通常はスケジュールにもとづいて観測を行なうが、衛星からのアラートが受信されたら、それまでの観測を停止し直ちに残光の観測を開始させる。求められた残光位置は世界に通報し、大望遠鏡による観測につなげる。
講演では、これら観測システムの詳細と現状、今後の見通しについて述べる。

"HETE-2衛星による軟ガンマ線リピータの観測"
前當未来(青学大)

 HETE-2衛星は、軟X線から軟ガンマ線のガンマ線バーストを主観測対 象としており、軟ガンマ線リピータ(SGR)からのバーストやX線バースト を副観測対象として、継続的に観測している。
 このHETE-2衛星は反太陽指向であるため、夏期に観測装置の視野は銀 河中心方向を向くことになる。この為、この期間には銀河中心方向に多く存在 する軟ガンマ線リピータにおけるバースト現象を頻繁に観測する。
 同衛星は2001年6月から2004年8月の間に、SGR1900+14 について6例、 SGR1806-20について60例のバーストを検出した。 特に2004年においてはにSGR1806-20からの49例ものバースト を検出している。
 軟ガンマ線リピータは1014から1015Gの強磁場を持つ 中性子星ではないかと考えられており、現在4天体が知られているが、そのバー スト機構についての詳細は不明である。しかし、近年の研究でSGR1900+14の 中規模以上のバーストのスペクトルは2温度黒体輻射で再現できるのではない かと示唆されている。
 我々はSGR1900+14のみならずSGR1806-20の バーストについても同程度(4keV+10keV)の2温度の黒体輻射でスペクトル を再現できることを突き止めた。今回は、その解析結果について報告する。

"HETE-2衛星が捉えたガンマ線バーストのX線アクティビティ"
中川友進(青学大)

 HETE-2衛星は、打ち上げから2004年8月末までに63例のガンマ線 バースト(GRB)を検出している。典型的なGRBよりもソフトなスペ クトルを持つ"X線過剰GRB(XRR)"や"X線フラッシュ(XRF)"が知ら れており、XRRやXRFの継続時間や時間変動は、典型的なGRBと良く 似ている。しかし、νFνスペクトルのピークの分布を見ると、 典型的なGRBは100keV程度であるのに対して、XRRやXRFは数十keV 程度であり、BATSE/CGROの結果と矛盾するように見える。最近の HETE-2衛星やBeppo-SAX衛星の観測・研究によって、GRB・XRR・XRFは 同一の現象の「異なる見え方」である事が示唆されている。また GRBには、ガンマ線領域(>25keV)での放射が終了した後に、X線領域 でのみ放射が見られる、いわゆる「X線テール・X線ポストカーサ」を 伴っていることが知られている。
 我々は、HETE-2衛星に搭載されている、広視野X線モニター(WXM:2〜25keV) およびガンマ線検出器(FREGATE:7〜400keV)のデータを用いて、 Softness Ratioの時間変動を調べた。ここでSoftness Ratioは、 WXMの2〜25keVのカウント数とFREGATEの25〜400keVのカウント数の 比である。その結果、いくつかのGRBは、「X線ポストカーサ」を 伴うことを見い出した。また、これらのバーストのスペクトル解析の 結果、メインピークと「ポストカーサ」では、GRB〜XRFのように 変化しており、一つのバーストの中に多様性が見い出された。
 本講演では、GRBのX線アクティビティに焦点を当てて、解析結果を報告する。

"HETE-2衛星搭載広視野X線モニター(WXM)応答関数の機上較正"
山崎 徹(青学大)

 ガンマ線バースト探査衛星HETE-2搭載の広視野X線モニター(WXM) は同一構造をもつ4台の一次元位置検出型比例計数管、及び互い に垂直な方向に配置した1次元符号化マスクからなっている。WXM は2-25keVのエネルギー範囲をカバーし、60°×60°の視野、垂直 入射X線に対して約350cm2の有効面積をもつ。
 WXMの応答関数(DRM)は合計12本の陽極芯線毎に、打ち上げ前の地 上較正実験に基づき構築された。打ち上げ後は、冬季にWXMの視野 に入るかに星雲の観測データを用いて、応答関数の機上較正が継 続的に行われてきた。2002年12月以降、かに星雲のスペクトルの 低エネルギー側(2-4keV)にexcessがみられるようになった。 またスペクトル解析の結果、そのexcessは年々増加している傾向 があることが判明した。そのため、WXMのサーマルシールドとして 用いられているアルミ蒸着カプトン膜が宇宙空間の原子状酸素に よって摩耗されたことにより、上記のexcessを生じた可能性が 考えられる。サーマルシールドの経年変化を考慮すると、かに 星雲のデータをうまく説明できる。そこでこの効果をとりこんだ WXM応答関数を作成した。
 本講演では、3年間に及ぶWXMの機上較正結果、さらにHETE-2衛星 搭載のガンマ線検出器(FREGATE:エネルギー領域 6-400keV)との クロスキャリブレーション結果について報告する。

"高エネルギー天体からの偏光X線検出器 PoGOの開発"
有元 誠(東工大)

 X線天文学は測光、分光、撮像の3つを柱として大きな成果を上げてきた が、偏光観測についてはほとんど手がついていない。10 keV 以下のX線領 域では僅かに一例、30年前にカニ星雲からの偏光が観測されたが、硬X線 での偏光検出例は皆無である。偏光は上記3つとは全く独立した観測の次 元を提供し、例えばパルサー天体での加速機構やブラックホール周辺の降 着円盤の構造、さらにはガンマ線バーストに伴うジェットの生成機構を解 明する鍵を担っている。
 近年、実験室レベルでの技術やアイデアは蓄積されてきたが、実際の衛 星観測は敷居が高く、未だ実現していない。気球実験は衛星に比べて開発 期間も短く、科学への迅速なフィードバックが可能である。我々は2007- 2008年の気球による観測を目指し、天体硬X線偏光検出器 PoGO(Polarized Gamma-ray Observer) の開発を進めている。コンプトン散乱の異方性を利 用して偏光を測定する装置で、大きな有効面積と、低バックグラウンド化 による高感度観測が特徴である。
 今回は、PoGOプロジェクトの概要を述べ、現段階での 検出器の開発状況 および性能評価について報告する。特に検出器からの微弱な信号読み出し に用いられる PMT(光電子増倍管)のデザインと、シンチレータの特性試験 について述べる。PMTについては気球高度で問題となる荷電粒子への対処 方法、ゲインの線形性や量子効率の向上等について触れる。また、PoGO の要素となる 2種類のプラスチックシンチレータの特性・応答についてま とめ、バックグラウンド低減用の BGOシンチレータと組み合わせた場合の 性能評価についても述べる。

"アバランシェフォトダイオードを用いた撮像検出器の開発"
斉藤孝男(東工大)

 アバランシェフォトダイオード(APD)はSi製半導体検出器の一つで、内部に電荷 増幅機能を持つ光検出器である。コンパクトで低電力、高い量子効率を示すとと もに、増幅機能により微弱な信号の読みだしに優れているなど、光電子増倍 管(PMT)とフォトダイオードの両方の特徴を兼ね備えている。
 我々はこのAPDを用いて2次元撮像カメラの開発を行っている。APDとシンチレー タを組み合わせて各APDからの信号値を比較すると、X線の入射位置に近いAPDか らは大きな値が、逆に遠いAPDからは小さな値が出力される。この信号値の加重 平均から入射位置を求めることができる。この手法はアンガーカメラ、またはガ ンマ線カメラと呼ばれ、PMTの代わりにAPDを用いることで装置の小型化と位置分 解能の向上が期待できる。将来的には、大学規模で開発する小型衛星への搭載を 考えている。本講演では、APD を用いた 4ch および 5ch の撮像カメラの開発と、 偏光イメージング検出器への応用を述べる。
 撮像性能をさらに向上するため、32 ch のAPD2次元 array と、その読みだし回路 系の開発を行った。講演では各素子におけるゲインの一様性や容量特性、 クロストークについて報告する。さらに、大型のCsI シンチレータと組み合わせて 得られるエネルギースペクトルや、撮像素子として利用した場合の画像分解能に ついても評価を行う。

"TES型マイクロカロリメータを用いた核融合プラズマ装置の軟X線観測"
篠崎慶亮(都立大)

 我々はX線領域で高いエネルギー分解能をもつTES(Transition-Edge sensor)型 マイクロカロリメータを用いて、産業技術総合研究所の核融合プラズマ装置--- 逆磁場ピンチプラズマ装置(TPE-RX)がプラズマ生成時に発する軟X線の測定を 行なった。これは軟X線(0.5-8.0keV)のスペクトルを高いエネルギー分解能で 得ることにより、不純物の同定や電子温度を決定してTPE-RXのプラズマ状態を 調べると同時に、次期X線天文衛星搭載を目指したTES型マイクロカロリメータの 実証試験となっており、天文物理と核融合プラズマ物理の共同実験である。 TPE-RXは大半径1.72m、小半径0.45mの、ドーナツ型真空槽をもった逆磁場ピンチ 方式のプラズマ閉じ込め装置で、世界3大RFP(Reversed Field Pinch)の1つである。 生成されるプラズマは電子/イオン温度 1.0/0.5keVで、電子密度は5×10^{19}m^{-3}、 プラズマ持続時間はフラットトップで約50msである。 またTES型マイクロカロリメータは素子にX線が入射した際のわずかな温度変化を とらえる検出器で、超伝導体の遷移部分を用いることで高いエネルギー分解能が 期待される。この検出器は低ノイズ実現のために100mK以下という極低温環境が 必要であり、本実験では他研究機関に移動、接続可能な断熱消磁冷凍機を使用した。 今回行なった共同試験ではプラズマ生成を計367ショット行ない、 信号取得は345ショット、特にこのうち約200ショットは FWHM 20eV程度のエネルギー分解能で測定でき、目標としていた0.5-1keV領域の X線を約1800counts検出した。offset補正前のスペクトルでは550eVにある入射窓の oxygen edgeがはっきりと見え、1keV付近には多数のFe、CrのL殻と思われる輝線を とらえている。 ポスターでは本実験のセットアップ、実験方法、取得したスペクトル解析結果の 精細を述べる。

"全天X線監視装置(MAXI)の地上データ処理システムの開発"
小浜光洋(理研)

 全天X線監視装置(MAXI)は、国際宇宙ステーション(ISS)の日本モジュー ル(JEM)の曝露部に塔載が決まっており、現在開発が進められている。各検出器で 捉えたX線天体の情報は、搭載したデータプロセッサー(DP)で処理され、JEM、ISSを 経由して地上にデータテレメトリとして降ろされる。データテレメトリはJAXA内の データベース(Operations Control System)に蓄えられ、そこからミッションチーム に配布される。 MAXIチームは受け取ったデータを即時解析して、突発天体等の情報を全世界に いち早く速報すると同時に、理化学研究所を通して観測されたデータを速やかに 一般に公開する事を予定している。
 MAXIのデータは検出器がISSと共に動くため、観測された光子一つ一つの位置と 時間情報がリレーショナルキーとなりデータベースはおおよそ、 レコード数〜100Giga、データ項目数〜2000、データ容量 1〜2テラバイト まで達すると見込まれ、国内の天文データベースでは最大級のものである。
 現在我々はOCSから取得したデータの一次処理をリアルタイムで行うデータ ベースシステムを開発している。昨年度までにプロトタイプが完成し、 評価試験をおこなった。今年度はより実状に合わせた詳細実装を行なっている。 現状の報告と解析、データ公開システムまで含めた今後の予定を踏まえて 発表する。