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アブストラクト(口頭発表)

宇宙における加速

"多波長解析から探る、活動銀河ジェット・ホットスポット・ローブの統一描像"
片岡 淳(東工大)

 近年、ASCA衛星や Chandra衛星の撮像観測により 40 以上の活動銀河核から X線で 輝くジェット構造 (ノット、ホットスポット、ローブ)が検出された。本講演では56 個のノット、24個のホットスポット、18 個の電波ローブの 現時点で``完全な''サ ンプルを作成し、5GHz の電波強度と 1keV の X線強度を比較することで 系統的か つ定量的な考察を行った。X線の放射機構として、シンクロトロン放射(SYN)、シン クロトロン自己コンプトン放射(SSC)、および 宇宙背景放射のコンプトン放射(EC) が考えられる。SYN によるX線放射は、近傍の電波銀河のノットで多く検出され、10 -100 TeV の非常に高いエネルギーまで加速された電子から放射されると考えられ る。SSC放射とEC放射に関しては電子と磁場のエネルギー等分配を仮定して X線強度 の「期待値」を求めた。ホットスポットとローブについては、「期待値」と「観測 値」が概ね一致するのに対し、ノットで観測されたX線強度は予想より大幅に``明る すぎる''。この結果は、kpc-Mpc といった大スケールにおいても ジェットがローレ ンツ因子 10程度で高速に運動をしているか、あるいは等分配の条件が著しく崩れている (粒子優勢ジェット)ことを示唆する。ホットスポットやローブはジェットの終点で あり、ここでプラズマは急速に減速され、磁場と電子の等分配が達成されるのかも しれない。さらに、ホットスポットでは磁場の強さがノットやローブより一桁程度 大きく、 100μG 程度であることが分かった。ホットスポット内での強い衝撃波圧縮 で、磁場が強められているとして理解される。

"球状星団で見えてきた粒子加速現象"
岡田 祐(東大)

 球状星団中の星はその進化の過程において、0.2--0.5太陽質量程度の質量を ガスとして放出する。これらは、星団の重力ポテンシャルに閉じ込められる はずであるが、これまでそのような発見例は数例しかなかった。これを説明 するため、星団中のガスを何らかの形で取り除くメカニズムが考えられてい る。最も有力な候補は、銀河ハローによるram pressureである。そのような 場合、比較的速い速度で固有運動をしている球状星団では、ショックが形成 され、加熱/加速された電子からのX線放射が期待される。
 我々は、X線衛星チャンドラによって、2つの球団星団(47Tuc,NGC6752)から、 非熱的なX線放射を検出した。これらは、1〜数pc程度広がっており、かつ銀 河ハローに対し、進行方向に局在することがわかった。さらに、この広がっ たX線放射とよく一致した場所から、電波(843MHz)対応天体が見つかった。
 X線放射が球状星団中の光子と加速電子による逆コンプトン散乱、電波放射が 磁場と加速電子とのシンクロトロン放射と考えると、ローレンツ因子10〜1000 程度の加速された電子と、1μG程度の磁場が存在することで、観測量を説明で きることがわかった。後者は典型的な星間磁場の値とよく一致している。この ことから、星団中に残っているガスと銀河ハローによってショックが形成され 、粒子加速現象がおきている可能性が高い。

"X線天文衛星Chandraで探る宇宙線加速現場"
馬場 彩(理研)、山崎 了、吉田 龍生、寺沢敏夫、小山勝二

 100 TeVにも達する超高エネルギー宇宙線はその発見以来、加速起源と機構を 最大の焦点とした研究が続けられている。日本のX線天文衛星ASCAによる超新 星残骸SN 1006からのシンクロトロンX線放射の発見(Koyama et al. 1995)は、 SNRの衝撃波面での100 TeV近い電子の存在を初めて直接証明し、超新星残骸衝 撃波面が宇宙線加速現場であることを明らかにした。理論的にも、粒子が衝撃 波面を行き来する度に衝撃波からエネルギーを得る衝撃波加速理論が有力になっ ている。しかし、超新星残骸で加速可能な宇宙線の最高エネルギー、宇宙線へ 注入される総エネルギー量、加速現場の磁場方向や乱流度などに対する定量的 議論は全く進んでいない。このような中、我々は硬X線シンクロトロン放射の 空間分布という新しい次元の情報に着目し、この問題の解決に挑んだ。
 我々は空間分解能にすぐれたX線天文衛星ChandraによるSN 1006の観測データ を解析し、シンクロトロン硬X線が超新星残骸半径の1%程度の極めて狭い領域 に集中する事を世界で初めて発見した。この薄いfilament状構造を従来の衝撃 波加速理論で説明しようとすると、(i) 衝撃波法線に垂直でやや圧縮された磁 場、(ii) 衝撃波法線に平行で非常に圧縮された磁場、のいずれかが必要なこ とが分かった。またいずれの場合も、磁場は乱流状態になっており、その結果 粒子の加速効率は非常に良くなることをつきとめた。
 我々はさらにこの手法をその他の歴史的に爆発の記録が残っている(=年齢の 分かっている)超新星残骸4天体にも応用し、いずれの超新星残骸にもfilament 状シンクロトロン硬X線を発見した。filamentの時間進化を調べた結果、衝撃 波の運動エネルギー密度・熱エネルギー密度・磁場エネルギー密度・宇宙線エ ネルギー密度はお互いにequipartitionを保ったまま進化することを発見した。 これらの結果は、従来の宇宙線加速理論の常識を覆す画期的なものである。
 本講演では、ASTRO-E IIを用いた衝撃波から宇宙線へのエネルギー注入率測 定アイデアについても述べる予定である。

"Chandra衛星によるHII領域RCW89とパルサージェットの相互作用の観測"
谷津陽一(東工大)

 活動的なパルサーPSR B1509--58 を伴う超新星残骸MSH15-52(G320.4--1.2) に は、スペクトルの異なる2つの天体群が存在している。一つはパルサーを中心 として広がっているパルサー星雲やジェットなどの非熱的スペクトルを持った 構造群である。もう一方が本研究対象のRCW89であり、熱的スペクトルを持ち 電波や軟X線で強い放射が観測されている。中心のパルサーは短い周期(150ms)、 若い特性年齢(1500年)、電波からガンマ線におよぶ放射を示し、かにパルサー のような若い活動的なパルサーである。RCW89との位置関係から、パルサーか らのジェットがRCW89の熱源であると考えられて来た。
 本研究ではX線天文衛星Chandraのデータを用いて、イメージスペクトル解析を 行った。非常に優れた空間分解能により、RCW89の輻射領域が馬蹄形に並んだ クランプ構造からなることが明らかになった。我々は、特に明るいクランプに ついて個別にスペクトル解析し、それぞれが異なる温度・電離状態にあること を明らかにした。この観測結果をもとに、RCW89の加熱過程やパルサージェッ トとの関連について考察していく。

ガンマ線バーストほか

"ガンマ線バースト発生率から探る宇宙再電離と金属汚染"
米徳大輔、村上敏夫(金沢大)

 ガンマ線バースト(GRB)とは数10秒という短時間の間だけ、大量のガ ンマ線が降りそそぐ突発現象であり、最大光度が10^54エルグ毎秒に達す るような宇宙最大の爆発現象である。GRBの光度を用いれば赤方偏移が20 のような極めて初期の宇宙を探査できる可能性がある。我々はGRBのスペク トル解析から得られるピークエネルギー(Ep)と光度との相関関係を距離指 標とし、距離の測定されていない複数のGRBについて赤方偏移を推定した。 赤方偏移分布とジェット状爆発の幾何学的効果を考慮して、z=12までのG RB発生率を導出したところ、初期宇宙ほどGRBの発生率は高いという結果 が得られた。これは初期宇宙における大質量星の形成をトレースしていると考 えられる。
 初期宇宙で爆発的な星形成が行なわれたとすると、その後の宇宙進化に影響 を及ぼすような効果を外部環境に与えた可能性がある。特に、近年のWMAP 衛星の観測で得られた宇宙再電離と、クェーサーの観測から指摘されている銀 河間空間に存在する大量の金属元素の起源について注目した。我々はGRB発 生率を用いて第一世代星の絶対生成率を計算した。第一世代星からの紫外線輻 射の総量を計算した結果、10^7年という短時間で宇宙空間の中性水素を完 全電離する事が可能であり、WMAP衛星が観測した初期宇宙での再電離を実 現できると考えられる。また、大質量星は星の終焉を迎える際に、超新星爆発 を起こして外部に金属元素を放出する。再電離が完了するのと同程度の時間で、 銀河間空間に太陽組成比の1万分の1程度の金属を撒き散らしたと結論づけた。 ここで見積もった金属汚染量は、クェーサー天体の観測から報告されている銀 河間ガスの金属量を満足するものである。本講演ではGRBの観測から考えら れる初期宇宙像について「宇宙再電離」と「金属汚染」という、広大な宇宙の 相転移に着目した講演を行なう。

"ガンマ線バーストにおける加速粒子の冷却"
浅野勝晃(天文台)

 ガンマ線バーストは10^20 eVを超える宇宙線ソースの有力な候補である。また、 加速された陽子が高エネルギー光子と衝突し、中間子を生成するので、ニュー トリノバーストを起す可能性もある。しかし、この中間子生成の効率が良すぎ ると、加速粒子のエネルギーは失われ、結果として、宇宙線を説明できるよう な高エネルギー粒子は生まれない。本講演では、加速粒子の冷却過程シミュレ ーションについて報告する。標準的なガンマ線バーストのパラメーターを用い ても、加速粒子はその大部分のエネルギーを中間子に与えてしまい、最終的に は、光子あるいはニュートリノに輸送されてしまう。ガンマ線バースト本体が、 宇宙線のソースである可能性はかなり低いと言わざるをえない。

"広大1.5m光学望遠鏡を用いた多波長連携観測計画"
川端弘治(広島大)

 広島大学では、国立天文台三鷹キャンパスに設置してある 1.5m光学赤外線 望遠鏡(= 赤外シミュレーター)を譲り受け、西日本の適地へ移設して、 ガンマ線天文衛星GLASTやX線天文衛星Astro-E2と連携した独自の多波長観測 天文学研究を進めつつ、赤外シミュレーターの機能を一部継承した共同利用 も行うことを念頭に、サイト調査や建設準備、装置開発などを行っている。 順調に行けば、来年春にはドーム施設の建設が始まり、晩秋には望遠鏡の 移設が行われて2006年からは観測が始まる見込みである。主な研究対象は、 ガンマ線バースト、ブラックホールを含む連星系、超新星のほか、GLASTに よって多数発見されると期待される新ガンマ線天体の光学同定である。 発表では、これら広島大学宇宙科学センターの研究計画と進捗をまとめて 報告する。

"CdTeピクセル検出器とそれを用いた次世代硬X線/ガンマ線観測器"
中澤知洋(宇宙研)

 10keVから数MeVという、硬X線、軟ガンマ線には、粒子加速や重元素生成に 伴う放射が強く現れるため、その高精度観測は、宇宙におけるこれらの非熱的 な現象の解明のカギを握っている。しかし、この帯域の観測感度は、10 keV 以下のX線帯域と比較して、3桁ほども劣る。これは、高いエネルギー帯域ほ ど天体からの光子の数が減る上、検出器の放射化など、宇宙線由来のバックグ ラウンドが高いことに由来する。これを打開する2枚の切札として、次世代衛 星への搭載が検討されているのが、80 keV までの硬X線を集光する新技術「ス ーパーミラー」とその焦点面の硬X線イメージャの組合せ、および100keVから 数MeVの帯域で、バックグラウンドを極限まで下げる、日本独自の新しい概念 に基くガンマ線検出器「狭視野の半導体コンプトンカメラ」である。
 我々のグループでは、これらの実現へ向けて検出器の開発を進めているが、 そのカギを握るのが、硬X線に対する高い検出効率と、優れたエネルギー分解能 を併せ持つ、CdTe ピクセル検出器である。この検出器の実現には、4つの基礎 技術の確立が欠かせない。それは、優れたCdTe素材、数千にもなるチャンネル を高い時間分解能で処理する低雑音なアナログLSI、両者の電気的・機械的な接 合、そして多数のLSIの制御とそのデータ処理の技術である。これまでの開発の 結果、我々は、500 um ピッチで 1.2cmx2.5cmをカバーし、エネルギー分解能 1 keV(\@60 keV FWHM) の大型撮像分光検出器(大貫他 SPIE 2004)を実現 し、また、Si/CdTe コンプトンカメラの試作器を稼働させ、356 keV で 6度(FW HM)の角度分解能のイメージを得ており、偏光の検出にも成功している(三谷 他 IEEE 2003、田中他 IEEE 2004)。
 本講演では、CdTeピクセル検出器の最新技術を中心に、これらの検出器の開 発の現状を報告するとともに、実際の衛星搭載へ向けた基盤技術の確立と、よ り優れた位置分解能、より高い検出効率の実現へ向けた試みについて紹介する。

"学生主導の小型衛星開発(1) 〜東工大小型衛星開発の現状〜"
古徳純一(東工大)

 東工大では、理学系と工学系の研究室の共同プロジェクトとして、大学規模での 宇宙衛星の開発に取り組んでいる。 小型衛星には、大型衛星に比べ、 1)開発サイクルの短縮、2)開発費用の削減、3)打ち上げ費用の削減 といったメリットがある。 現在、来年の夏に打ち上げを目指して重量2kg, 10cm立方の箱を2個連結した小型衛星cute1.7を開発中である。
 我々理学系のメンバーは、次世代宇宙用X線検出器として、 光電子増倍管に比べて小型で省電力かつ丈夫なAPD(アバランシェフォトダイオード) の開発を進めてきた。 APDはPINフォトダイオードに内部増幅領域を持たせたもので、 素子内部で信号を100倍に増幅することにより等価的にノイズを低下させ、 従来のPINフォトダイオードでは困難だった20 keV以下の測定ができるようになる。 今回、このAPDを放射線検出器として世界で初めて衛星搭載し、 素子の宇宙実証を行うとともに、 地球磁気圏に捕らわれた荷電粒子計数測定を行うことを目的としている。
 本発表では、これらの開発の現状と、さらに、次の段階として重量20kg級の衛星の開発への展望についても述べる。

宇宙高温プラズマ

"X線吸収線を用いた銀河団周辺の銀河間高温物質(WHIM)の観測"
竹井 洋(宇宙研)

 Virgo cluster、Coma cluster 背後のクェーサーの X 線スペクトルから、両 銀河団周辺の銀河間高温物質 (Warm-Hot Intergalactic Medium = WHIM) 中の 重元素によると考えられる吸収線を検出した。この観測結果について発表する。
 宇宙に存在するバリオンの量は、宇宙論と遠方宇宙の観測から強く制限されて いるが、現在の宇宙ではその 20 % 程度しか観測されていない。観測されてい ないバリオンの多くは温度 10^(5-6) K の希薄な銀河間物質 (WHIM) として宇 宙の大規模構造を形成していると考えられており、WHIM の観測は大規模構造 形成史の理解において重要である。WHIM からの放射を観測するのは現在の衛 星では難しいが、明るい X 線源を背景とした WHIM による吸収の観測は可能 であり、これまでブレーザーを背景天体として赤方偏移 z=0 の吸収線がいく つか検出されてきた。ただし、系内物質と WHIM との区別は自明ではない。
 我々は、z>0 で、かつ大きな柱密度が期待できる銀河団周辺に着目し、視線方 向に長いことが示唆されている、Virgo cluster、Coma cluster 背後のクェー サーを XMM-Newton RGS で観測した。銀河団は大規模構造の要であり、銀河団 周辺の WHIM の観測は大規模構造形成過程の理解のために特に重要である。観 測の結果、Virgo の z に対応する O VIII の吸収線を 2.3 σ の有意性で、 Coma の z に対応する Ne IX、 O VII の吸収線を 3 σ の有意性で検出した。 一方 EPIC のスペクトルにも系内物質の放射では説明が難しい warm excess が見られた。これらの結果は銀河団周辺の WHIM の存在を強く示唆している。
 今後 Astro-E2、DIOS など X 線マイクロカロリメータを搭載した衛星により WHIM からの輝線を観測することが可能となる。吸収線と輝線の観測結果を組 み合わせることで、WHIM の奥行き、密度などを精度良く求めることができる。

"TES型マイクロカロリメータを用いた核融合プラズマ装置の軟X線観測"
石崎欣尚(都立大)

 我々は天文物理と核融合プラズマ物理の共同実験として、 X線領域で高いエネルギー分解能をもつTES (Transition Edge Sensor)型 マイクロカロリメータを用い、産業技術総合研究所の核融合プラズマ装置--- 逆磁場ピンチプラズマ装置(TPE-RX)がプラズマ生成時に発する軟X線の測定試験を 行なった。これは軟X線(0.5-8.0keV)のスペクトルを高いエネルギー分解能で 得ることにより、不純物の同定やプラズマ温度を決定してTPE-RXのプラズマ状態を 調べると同時に、次期X線天文衛星搭載を目指したTES型マイクロカロリメータの 実証試験となっている。
 TPE-RXは大半径1.72m、小半径0.45mの、ドーナツ型真空槽をもった逆磁場ピンチ 方式のプラズマ閉じ込め装置で、世界3大RFPの1つである。 生成されるプラズマは電子/イオン温度=1.0/0.5keVで、電子温度は5×10^{19}m^{-3}、 プラズマ持続時間はフラットトップで50msである。 またTES型マイクロカロリメータは素子にX線が入射した際のわずかな温度変化を とらえる検出器で、超伝導体の遷移部分を用いることで高いエネルギー分解能が 期待される。この検出器は低ノイズ実現のために100mK以下という極低温環境が 必要であり、本実験では他研究機関に移動、接続可能な断熱消磁冷凍機を使用した。 今年8月に行なった実験ではプラズマ生成を計367ショット行ない、 信号取得は345ショット、特にこのうち約200ショットは校正線源(Mn Kα 5.9keV)で FWHM 20eV程度で測定でき、目標としていた0.5-1keV領域を約1800counts集めた。
 なお、同じ内容を、篠崎 (都立大)がポスターとしてまとめているので、 そちらも参照してほしい。